大腿骨頸部骨折術後の患者さんで、
創部の経過はいいにも関わらず、
「どうしても力が抜けない」
「外を歩くと怖い」
「なんか違和感がとれない」
という患者さんは多くいらっしゃるのではないでしょうか?
そんなときに是非チェックしてみてほしい脳の問題について記載してみました。
アプローチに困っているセラピストの方の参考になれば幸いです。
術後の経過は良好。
脱臼肢位の理解・管理も良好。
可動性や筋力もそこそこついてきた。
なのに痛みや不安定感を訴えられる。
そんな場合に見ていく要素を
運動器の機能と脳機能の2つに大別して
エラーの多いものを列挙してみました。
1.運動器チェックポイント
私はどんな疾患・症状の方でも下記は確認するようにしています。
①足指・足部は分離運動が可能か?
②脊柱の動き(屈伸・側屈・回旋)は保たれているか?
③各隔膜の柔軟性は保たれているか?
以下で解説していきますね。
1-1.①足指・足部の分離運動
足指・足部の機能は唯一地面に接触する部位です。
この機能が低下すると他の部分で代償する必要があります。
例としては、
・足部内外転運動を股関節内外転で代償
・足部底屈運動を腰部伸展で代償
などこのように他の部分に負担をかけてしまいます。
最悪代償しきれず転倒に繋がる可能性もありますね。
簡単にできる検査として
・足趾でグーチョキパーができるか?
・足部がグニャグニャに動くほどの可動性があるか?
・足部のみで内外転運動ができるか?
を確認し、異常があればそのままアプローチすることもあります。
1-2.②脊柱の動き(屈伸・側屈・回旋)
脊柱の重要性はよく言われることですが、
四肢全部を合わせた力の9倍の力があると言われている場所です。
どんな姿勢・動作でも脊柱の関与しないものはありません。
とても大切な場所なのですが、
加齢や受傷に伴い使いにくくなる場所でもあります。
もともと感覚受容器自体も少ない場所で、
自分でも他人からも意識されることも少ない場所なのです。
実際多く体幹部のトレーニングで対象となっているのは、
背骨ではなく腹筋や背筋群に関する物が多いです。
背骨の力の凄さの一例として下記の動作のようなものがあります。
簡単に説明すると、
手足を使うのを諦めると、
背骨を引き出すことができます。
もうちょっと一般的な話をすると、
立ち上がり動作において股関節・膝関節の伸展以外にも
脊柱の伸展を行うことでかなり下肢の負担を軽減することができます。
このような力を引き出すためにまず最低限、
屈伸・側屈・回旋がしっかりと動かせる必要があります。
特に胸椎の伸展と、下部胸椎の回旋は大切な要素になります。
是非チェックしてみてください。
1-3.③各隔膜の柔軟性は保たれているか?
隔膜?という方も見えると思いますが、
横隔膜も隔膜の一種です。
私がよくチェックしているのは、
・後頭環椎関節隔膜
・胸郭上口隔膜(シブソン筋膜)
・横隔膜
・骨盤隔膜
の4つです。
これらは呼吸のように、
意識しなくても勝手に動いてくれており、
循環を担保してくれています。
上部頸椎・鎖骨・肋骨・骨盤の柔軟性が
左右差がなければ理想的ですね。
なんらかの症状がある方は
このあたりに問題を抱えている方が多いです。
左右に押してみれば硬さで
左右差が分かるので
是非チェックしてみてください。
2.脳機能チェックポイント
脳機能検査というと、
「脳血管疾患の患者さんにするものでは?」
という方も多いかとは思いますが、
運動器の疾患の方でもとても大切です。
私自身も経験がありまして、
久々にサッカーチームに顔を出したら、
急遽公式戦に後半から出ることに💦
3年ぶりなので身体が動かないのは当然ですが、
それ以上に
周りを見渡すだけで
目眩のような感覚に襲われ、
正直試合どころではありませんでした。
もし、
後頭下筋群と眼球の協調性低下による目眩なら、
試合前のウォーミングアップで気づくはずです。
でも実際は、
試合に入ってから症状が出始めた為、
単純な運動器の機能低下ではなさそうですよね?
個人的には、
・3年ぶりにボールを蹴ったこと
・身体が動かないのを自覚したこと
・公式戦であり緊張したこと
・試合が劣勢であったこと
などが絡んだ結果、
試合中に脳の機能低下が起きたと考えています。
シチュエーションが変わることでパフォーマンスが変わることはよくありますよね。
(イップス的な感じです)
このように運動器としての異常と
脳機能としての異常は
分けて考える必要があると思っています。
そこで臨床場面において私がよくチェックするのは、
・前庭機能
・小脳機能
・大脳機能
・脊髄機能
・脳神経機能
これらを症状に応じてチェックしています。
検査方法は学生時代に購入した本に載っているモノも多いです。
(基礎はやっぱり大切なんですねぇ)
特に前庭機能や小脳機能、
大脳機能に異常を抱えている方は
ものすご〜〜〜く多いです。
対応した事例ですと、
2-1.事例1:右大腿骨頸部骨折術後
経過1年以上経過しても、日によって場所が変わる疼痛に悩まされる方
外で歩こうとすると緊張してしまいうまく歩けない。
この方に立位のまま下記の検査をすると異常がありました。
小脳検査:両手をすばやく規則的な動作を繰り返す
大脳検査:苦手な外をスイスイ歩いている自分をイメージしてもらう
両方共に検査中下肢の緊張が高まるという反応が出現し、
小脳検査は、患側手はうまく動かせない。
大脳検査は、そもそも歩いている自分がイメージできない。
という反応が得られました。
これでは臥位のROMやMMTを改善しても
症状が良くなるかどうかは当てずっぽうになってしまいます。
「実際の現場になると緊張する」が取れないので、
再び緊張して疼痛がいろんなところに出るというループが続いてしまいます。
なのでこのケースの場合は、
ROMやMMTの改善も図りつつ、
小脳・大脳機能へのアプローチもしてます。
最近は
「いいイメージができるようになってきた」
と言ってもらえるのでいい方向に行ってる感触がありますね。
2-2.事例2:立位時に麻痺側の踵が浮いてしまう
発症3年経過の片麻痺の方。
ほぼ毎日リハビリを受けられているということで、
麻痺側足部の柔軟性はかなり保たれている方でした。
それでも、実際に立位を取ると、
内反尖足が著明に出現するという状況。
脳機能を確認すると、
前庭と後頭葉の異常がありました。
2分ほどかけて両要素に介入し、
立位をとってもらうとしっかりと踵は接地して、
「初めて踵があるってわかった!」
「しっかり地面に着いているのがわかる!」
と言ってもらえました。
1週間後会った時には
「足首が持ち上がる(背屈する)ようになったよ」
とうれしい報告も貰いました♫
3.まとめ
脳というものは確実に人の運動や症状に関わってくる部分です。
脳血管疾患・運動器疾患などの疾患に関わらず、
働き具合を評価すると、
新たにアプローチするべきポイントが見えたりします。
つまり、
もっともっと患者さんがよくなる可能性があるということです。
もちろん運動器に介入することで、
脳機能が改善することもあるので、
どのような施術や運動方法でもそれを起こすことができる可能性があります。
巷で流行る「一瞬で●●が治る」的なアプローチの方法論に惑わされず、
相手の状況をしっかり評価する重要性を再認識している今日このごろです。
それでは
ご覧頂きありがとうございました!
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